| TUNEUP2 |
| 握っていたLサイズのコーラのカップが、すっかり温くなっている。 こっそりと携帯の画面を見ると、もう1時間以上も話しこんでいたことに気づいて、 吉川雪登は一瞬酷く慌てた。 「……どうしたんだ?吉川」 怪訝そうに問い掛けてくる相手に、首を振る。 「あ、間違えちまって、はは。ケイさんと話してるとスタンドの気分で」 しょうのねぇ奴だな、と古河圭吾は笑う。 二人は元々同じガススタンドでアルバイトをしていたのだが、圭吾は先日とある事故に 遭って、その仕事を止めてしまったのだ。 今日はバイトが休みの雪登は、まだ病院通いが続く圭吾と、その病院前のマクドナルドで待ち合わせをして、圭吾が辞めてしまった後のスタンドの話などを相談していたのだった。 「ごめん、本当は俺相談しちゃいけないんだろうけど」 手を会わせて拝む仕草をすると、圭吾はまた笑った。 「悪いってことはないけどさ、止めろ、んな真似」 左手を伸ばして、目の前で会わせた両手を二つに切ってくる。おどけたように雪登は手を離して、小さく笑って見せた。 「でも、ほんと、常連さん煩いんすよ。ケイさんいないのかとか、所長お休みだと洗車はサイアクだとか」 「森山の奴とかいるじゃんか。……あいつもそろそろ覚えたろ」 だ〜めだめ、と雪登は首を振った。 「この前も間違ってオイル窓に垂らしちまって。お客さんカンカンでしたよ」 圭吾は、洗車や接客態度が抜群だったため、社員になるのではないかと皆が言っていたほどだった。 事故さえなければ、整備士の試験を受けてそうなっていたかも知れない。 制服を着て、あちこちを大きな体に似合わない素早さで走る姿は、どの客にも好感を持たれるほど颯爽としていた。 溜息をつき、圭吾は溶けたシェイクが面倒になったのか、ストローを外してカップの蓋を開けた。 ずずずっと啜り、 「ま、でも、お前はまだ残ってくれてるしな。お前、へこたれねぇから俺好きだし」 温くなったコーラを、雪登は一気に啜りこんだ。炭酸がいつもより暴れて、口中を痛めつけにかかる。軽く咳き込むと、圭吾が紙ナプキンを差し出してくれた。 きちんと受けとって、乱暴に口元を拭う。 「頑張れ、俺も応援だけはしてる」 「……はいっ」 答えて、引っ込む手に雪登は視線を送った。 スタンドでは、耐えずオイルと埃で真っ黒だったふた周りも大きい手は、今は綺麗な肌色をしている。爪の間にも、もう煤の跡さえ見られない。 「俺もう……行くけど」 「あ、俺も」 殆ど同じに二人は立ちあがった。20センチ以上の身長差を、雪登は否応無しに自覚させられてしまう。 それでも、『ケイさん』だから構わない。 じっと見ていると、さっきの手がぽんぽん、と頭を叩いてくれた。 鼻の奥が、ツン、とする。炭酸のせいだ、と自分に言い聞かせる。 「連絡、有難うな。また」 カッターシャツとジーンズ姿の圭吾の背を見送りながら、雪登は好きな人が遠くなってしまった寂しさを、涙にさえ変えることが出来なくて暫くそこに呆けたようにしていた。 部屋には誰も入ってくる気配はない。 それを確認してから、そっとズボンの前に手を滑らせる。 こんな真似を覚えてしまったのは、何時からだろう。 笑顔を、仕草を思い出すたびに身体の奥から滲み出すぬるさ。堪えていた衝動を解き放つべく、ボタンを外してジッパーを引き下ろす。 布ごしに、先ずはそっと撫でる。少しずつ息を弾ませながら、何度も手を往復させる。 上がる息は自分のものであって、自分のものではない。 自分ではなく、脳裏に浮かぶ面影に快感を送り込むように想像を捻じ曲げて、やがて手を差し入れて、張り詰めた部分を握り締める。 甘い声も、上げているのは自分ではない。『彼』だ。 自分が相手に、思いの丈を込めて快楽を注いでいるのだ。 世界から切り離されて、暫し少年は心地よい孤独の時間を持つ。 学校の、バイトの休み時間に、携帯メールを一心不乱に打つ。一日4通は多いだろうかと悩みながらも止められない。 本当はもっと会いたいし、メールも送りたい。 気味悪がられないなら、一緒に遊びにも行きたいくらいなのだ。 圭吾は忙しくて、休みに何をしているか聞いたら、一度『寝てる』と言われて遊ぶ機会を逃してしまった。 背が高かろうと年上だろうと、女なら許されて男では許されない、この感情。 スタンドではどんなに汗と埃を浴びていても、圭吾が笑うと雪登の胸は明るくなった。 へまをして叱られれば、家で悔しくてたまらず、次の日にそれを忘れたような圭吾の笑顔を見るまでは落ちつけなかった。 つい、この間までのことだったのに。 入ったときからどきどきして、へまだって最初のうちはケイさんに見とれていたからなのに、その自分が、もうバイトの中堅メンバーになりつつある。 圭吾のアパートとかはまだ聞いていない。そんなことを聞けるほど親しくなるには、雪登の性格ではもう少しかかっただろう。 それでも、雪登は勇気を振り絞った。 『ユキって呼んで下さい』 学校からのメールに、そう入れてみたのだ。女ならこれはかな〜り告白に近いかな、なんて思いつつも、ケイさんならOKしてくれる、きっと次からは、と。 その日はバイトの予定を組みなおす日で、皆が合間を見て所長と奥のブースで打ち合わせをしていた。 雪登ももうすぐ呼ばれるはずだ。 メールの着信音が聞こえた。ほぼ同時に車が滑りこんできた。 焦る気持ちを堪え、『ケイさん』のようには行かないけど大声をあげて雪登は客を迎えに走った。 手を挙げて、圭吾のしていた姿勢を思い出しながら、ガソリンのブースに車を誘導する。 「いらっしゃいませ!」 乗っていた男は、どこかで見たような気がしたが思い出せなかった。 「ハイオク、カードで満タンで頼むよ」 銀縁眼鏡の男にクレジットカードを渡され、景気良くはい、と答えて給油孔にノズルをセットする。 名前には『卯月 祥郎』とあった。 どこかで見たような……見ないような、と窓を拭きつつ考えていると、 「今日は桃缶はないのかい?」 運転席から灰皿を差し出しながら、男はさらりと聞いてきた。 吸殻を捨てたトレイを拭いて返し、後ろの窓まで行った時に雪登はそれが誰かを思い出して素っ頓狂な声を上げた。 「あぁ!ケイさんのセンセ!!」 圭吾が事故にあった直後に、雪登は見舞いに何か買おうとして叔父に相談した。 『怪我なら桃缶』と大真面目に言う叔父の発言を真に受けて大量に買いこんで持っていったため圭吾ばかりかナースたちにも大笑いされ、恥ずかしい思いをしたものだ。 その時は白衣を着ていたから、冷たそうな印象ばかりあって、どうも馴染めずにいた。 こうして、カジュアルな服装でクラウンなんかの運転席に座っていられると分からない。 「遅いな。駄目だよ、スタンドの子が知った顔を忘れたら」 給油が終わり、カードを機械に通して、レシートにサインをもらう。 「すいませ〜ん」 つい、マニュアルとは違った砕けた謝り方になってしまう。 にっこり笑ってカードを受け取る卯月は、なかなか格好良かった。 圭吾がいなくなってからは、つい、様子の良い年上の男性には目がいってしまう。 「ケイくんとは仲が良いのかい?……今度、リハビリの時にでもおいで。友達が勇気付けてあげると、治るのも早かったりするから」 友達、と言う言葉には、どこか猫に手を引っかかれたような気がした。『ケイくん』という親しげな呼び方も、医者でなければ腹が立つ。 だけど、卯月の言葉は雪登にはうれしいものだった。 圭吾が嫌がるようなら、きっと医者でもあるし言ってはこないだろう。 「はぃっ、じゃ、今度一緒に行きますっ……て、何時ですか?」 来週の水曜、との言葉をもらい、車が走り去ってすぐ雪登は二宮所長に呼ばれてバイトの休みを決定した。 当然、リハビリの日にちを入れたことは言うまでもない。 しかし、その晩にロッカールームで確認した圭吾からのメールは雪登を困惑させた。 『ユキ しばらく連絡できない またこんどな』 その短い用件のみの文面を、何度も雪登は表示させては読みなおした。 いつもは、もう少し長く書いてくれる。急に素っ気無いほど短いメールになったのは何故なんだろう。 何か俺は、ケイさんの機嫌を損ねるようなことを書いてただろうか? それともやっぱり、回数多かったんだろうか? 容態急変……は、ないよな。 頭の中が疑問符で一杯になりながらも雪登はバイトを何とか無事に終えて、家に戻って即圭吾に謝りのメールをできるだけ急いで打った。 もしかすると、後でメールが来るかもしれないと。その答えが短くても、ちゃんと返信してくれるなら待っていよう、と。 しかし、それから圭吾の携帯メールが来ることはなくなってしまった。 前と違って、手を伸ばしたくても伸ばせない。 絶えず、人の目があるような錯覚を最近は覚える。 苦痛や苛立ちの種でしかないはずのその錯覚が、何時の間にこんなに芯から身体を震わせる期待のようになったのだろう。 そっとドアを開けて、誰もいないのだと確かめる。壁際を向いてベッドに横になり、背中で気配を探りつつ、ゆっくりと手を身体に沿って下に這わせてゆく。 まだ、大丈夫だ。大丈夫だから……。 暫く息を詰めて前を探ると、一点が強張るのと逆に意識は曖昧になる。 ドアの開くカチャリ、と言う音に、少年はそのまま一本の棒になった。 四日間を、コンクリートの上で焼かれる思いで雪登は過ごしてきた。 電話だと、着信するとは限らない。 圭吾だって忙しいだろうし、夜中は切っているのか、バイトから帰ってかけてみても虚しく携帯会社のメッセージが鳴るだけで、留守録はメッセージが満杯で録音できなかった。何度か留守録にかけたのは雪登だから、多分消されないままになっているのだろう。 だから思いきって、雪登は昼間、携帯を鳴らしてみた。昼飯時だとまたいないと困るしと午後の授業が一つ終わった辺りに、非常階段まで走ってわざわざボタンを押しなおした。必死に耳に当てて、コール音になったときの嬉しさ。 5コールほどのその音が、とても長く感じられた。 休み時間に話せることなど限られている。先ずは謝って、それから、明日一緒に病院へ 行きたいって……。 ふつ、と繋がる音がする。しかし、すぐに返事はこない。 どうしたのかと思った瞬間、 「……は……い」 着信状況が悪いのか、久々に聞く圭吾の声は掠れていた。 それでもその声が聞けて嬉しくて、雪登は声を弾ませてしまう。 「ケイさん俺ですこの前はすいませんでした……っ」 一気に言った後、練習しておいたはずの言葉がすっ飛んでしまって焦る。 いけない、俺、舞いあがってるよ。 「あ、あのっ、そのっ……」 どうも、ノイズか何かが入っているような、みしみしぎしぎしと音がする。 圏外ギリギリの所にでもいるんだろうか? 圭吾の息が一つ、大きく吸いこんで、 「ぁ、馬鹿ぁっ!!かけてくるんじゃねぇよっ!……ゃ」 罵倒の後に悲鳴のような音を残して、通信が途絶える。 耳元で最大音量で切れた音。しかし、大きな切断音よりも圭吾の言葉が、雪登の顔を歪 めさせた。 「ケイさんっ、ケイさんっ?!」 必死に呼びかける雪登。答えがあるわけないとわかっている。 もう一度かけてみたが、今度は以前と同じ、携帯会社のメッセージしか返らなかった。 ギリギリまで、本当に休み時間ギリギリまで粘って、……もう駄目だ、と思ったとき、目が熱くて痛いほどになった。 「吉川、どうした?」 「彼女にでも振られたんか?」 半ばは案じ、半ば面白がっているような級友達の声を振り切るように、雪登は教室にかけ戻る。 鞄を引っつかんで、隣の席を見もせず 「……俺、早退するって、大畑に言っといてくれっ」 「おいおいっ、急になんだよっ」 「いぃけど、ノート1P100円な〜」 そんな声に片手を挙げる余裕もなく、雪登は一気に校舎の階段を駆け下り、どうしたら良いかなど思いつかないまま、校門を走り出て行った。 後ろで担任の大畑らしい声もしたが、構わず走る。 すぐのバス停についていたバスに飛び乗り、定期パスを出そうとすると 「これ、病院行きだよ」 運転手に言われて行き先表示を見れば、圭吾の通う大学病院の名前がある。 ずき、と痛んだ胸に、しかし卯月の顔が思い浮かんだ。 「乗りますっ」 パスをポケットに乱雑に突っ込んで、雪登は小銭入れを出すと200円を叩きつける ように料金箱に入れ、開いている席にどっかり座りこんだ。 涙が出そうで、出ない。当たり前だ。何だか分からずに怒られたんだ。 ケイさんは怒っても、理由くらいは言ってくれた。 いったいどうしちまったんだよ? 俺が、何をしたってんだよ?! 何度も口の中でぶつぶつと呟く雪登に怯えた様に、後ろの席で母親に抱かれた赤ん坊が泣きじゃくり始めた。 不機嫌な顔の余りか病院の入り口で守衛に見咎められたものの、雪登は何とか病院のロビーで待たせてもらうことが出来た。 暫く待つと、病院での記憶にある通りの硬質な印象の卯月が顔を覗かせる。白衣は脱いでいるので、帰ろうとでもしていたのだろうか。 「あ、あの……」 口篭もる雪登に、しかし口元だけとは言え卯月は笑みを浮かべてくれた。 「どうぞ。ケイくんのことなんだろう?」 促されるままにロビーの椅子に座り、儀礼だろうがコーヒーでもと言われて飲めないというと笑われた。 少し待つ様に言われて、一人きりにされる。 やがて戻ってきた卯月は、紙コップを二つ手にしていた。 「コーラとかで良いのかな?自販機のもので済まないけど」 詫びと礼を口の中でもごもご呟く様に言いながら、雪登はコップを受け取った。 少しぬるいのを意外に思い、氷が入ってないからだろうかと片付ける。 こくこくと音を立てて飲む間、卯月は自分のカップを手に雪登をそっと医者らしい冷静な眼差しで見ていた。 「……喧嘩でもしたのかな」 何とか落ちついた、と思ったあたりで静かに問われ、やっぱりぎゅっと胃とも心臓ともつかない部分が痛んだ。これも炭酸のせいにできれば良いのに。 「急に、何ですよ。俺、悪いことしたならそういってくれれば謝れるのに、これじゃ何がなんだか……」 今までの経過を語るうちに、再び雪登の気持ちはぐらぐらと揺れはじめ、腹立たしいのと怖いのと入り混じって泣き笑いのような表情になった。 ぽんぽん、と卯月が肩を叩く。月並みな仕草だが、涙腺が緩むには十分だった。 「先生、センセ、俺……ケイさん何を怒ってるのか……」 自分はどうしてしまったのだろう、と雪登は頭の片隅でいぶかしく思った。 医者だからといって、『ケイさん』の担当だといっても、それにしてもこのドキドキは何だか変だ。 俺、話を聞いてもらえばすっきりすると思っていたのに。 頭を下げて、謝ってさっさと帰ろうと思ったとき、その頭に手がかかって押された。 それだけでもう、頭の芯が痺れたようになる。 変だ。と思うまもなく、 「寂しかったんだね。君は」 卯月の言葉に、あぁ、俺は寂しがっていたのか、と雪登はそう思った。 途端に本当に寂しくて溜まらなくなる。頭上の卯月の手が切ない程に嬉しく感じられてくる。 ……でも。学校の連中とゲーセン行って21連勝したりして、それなりに発散……。 卯月の手が離れ、ぼんやりと見上げると、顔が眼前にあった。 結構綺麗な目だと思い、その目の中に自分が奇妙に歪んで映っているような気がする。 言われていることが、良く分からなくなった。 いや、どうやら慰めの言葉みたいなのだが、それに何も答えられない自分を訝しく思う気持ちさえも、ゆっくりと霧散して消えてゆく。 もう一度、肩に手を置きなおされて、はっとした。 「さあ。ここでは何だから、送りがてら話をしようか。一緒においで」 一緒に、連れて行ってくれるんだ。 それだけで、何だかとても幸せで嬉しくなった。 立ちあがって、薄い満足げな笑みを浮かべた卯月に笑い返し、涙の後さえ拭わず、いや泣いていたことにも気づかずに、雪登はその後を子犬のようについていった。 ゆっくりと、雪登の体の一部にある変化が起こりつつあるのを、まだ誰も気がついてはいなかったのだが。 病院の空気は、絶えず清浄で快適な状態に保たれていると聞いている。 だのに、何となし寒気を感じて、雪登は震えた。 考えたら、衣替えになったばかりで半袖シャツにしたばかりだから、室内は寒いかもしれない。 あれから一度院内放送で、卯月は呼び出されてしまったのだ。 仕度をして来る間待つようにと、案内されて『応接室6』と書かれた部屋に入り、何となしに居心地の悪さをもてあましながら、座りごこちがロビーとは格段に違うソファーに腰掛け時計のカチコチと鳴る音を聞いている。 (やっぱり、ケイさんのこと相談しになんて、変だったかな……) 真面目そうな卯月に、打ち明けてどうとでもなる問題でもない気がする。 こっそり帰れば良いのだろうが、『待っていなさい』との卯月の声には、何故か逆らい難い響きを感じた。 自分がホモだなんて、知れたらやっぱり嫌われるのではないだろうか。 さっきは事情を話すだけで終わったけど、こんな所で詳しく追及されたら、隠しきれずに喋ってしまうかもしれない。そうしたら、口止めをしたとしても、圭吾に知られる可能性がある。知られて、嫌われたら。 そこまで考えて、雪登ははっとした。 身体は何故か、座ったというよりは座らされた黒皮のソファーからぴくりとも動いていないのだが。 もしかして、ケイさんにはとっくに俺が……ホモだってばれてるんじゃないだろうか? だから、……だから、嫌われた……? 自分の性癖に気づいてから、雪登はそれを出来るだけ隠そうとしてきた。男子校だけに、知られると碌でもない目にあうかも知れないと思ったからだ。 帰宅部だっただけに幸い友人にも知れることがなかった。少しは外で動けと叔父に叱られて、適当に近所のバイト口を探し……そして、出会ったのだ。 浅黒い肌、低いけど良く通る声、満面の笑顔が眩しい圭吾に。 (ケイさん……) 思い出した瞬間、雪登の中心で僅かながら熱が突き上げた。 相変わらず手も脚も座ったままの位置だが、中心の一点は、少しずつながら頭をもたげ、自ずから潤みを帯びはじめて制服を押し上げている。 このままでは、下着ばかりかズボンにまで染みを作ってしまいそうだ。 (俺、どうしちまったんだろ……) トイレに行きたいのだが、立てない。卯月の言葉が雁字搦めに雪登を縛っている。 そう、今は何故か卯月にも嫌われたくないのだ。 圭吾ばかりか卯月にまでそっぽを向かれたくない。 かちゃ、と背後でドアが開いたが、やはり雪登は身動ぎさえしなかった。 「良い子だ。待っていたんだね」 その言葉と共に、背後から雪登の頭に手が置かれる。その位置からだと、自分の変化が丸見えではないか、と焦ったが、 「いいんだよ、そこに座っていて。辛いだろう?」 戻ってきた、何故か白衣姿の卯月は雪登の脇にするりと寄り添う様にして座った。 医者だから見なれているんだろうか?それにしたって、急にこんな場所を盛りあがらせていたら流石に変に思われるだろう。 「ごめんなさい……」 こんな姿を見られているというのに、羞恥心は余り強く湧かなかった。 卯月がどう思っているかだけが気になる。怒られないなら、こんな格好でも別に嫌じゃない。卯月が喜んでくれていれば。 変だ。今日の俺は、絶対に変だ。ケイさんの電話聞いてから。 「?何を謝っているんだい?君は」 首を傾げながら、卯月はまず雪登の手を握ってきた。 「ケイくんが、好きなんだろう?……だから、僕に相談に来たんじゃないのかい?」 握ったり離したりされて、手から鈍いながらも心地よさが伝わってくる。 「センセ、笑わないの?」 「まさか。笑ったりなんか、するものか」 ほっと、溜息が出る。 「僕も君が気になるもの」 …………え? 「センセが、俺を?」 ゆっくりと、卯月は顔を雪登に近寄せてきた。 とても物慣れた風なのに、その表情はどこか冷静で、……カッコイイ。 「君はかなり僕の好みだと思うんだけれどね。どうだろう?君は嫌かな?」 現金なもので、雪登の心臓は、とくとくと波打ち始めた。前もますます元気になりだして、制服を不恰好なものにしている。 こんな、みっともない姿なのに、卯月は全く平気らしい。 ちょっと、いや、かなり雪登は揺れた。 「嫌……じゃ、ないと、思います……」 躊躇いながら、肯定か否定か分からない答えを返したとき、卯月は撫で擦っていた手を外すと、制服の上から直に雪登自身に触ってきた。 「……ぁ、ぁぁっ、センセ……」 つ、と撫で上げられただけ。布ごしのその感触は、自分で触れるより格段に良かった。 ただでさえ高い声が跳ねあがって、広めの応接室に反響する。 「良かった、嫌われていないなら、……ここ、楽にして上げられるからね」 ベルトを緩め、ボタンを外してくれる卯月を雪登はすっかり欲望に潤んだ目でみつめた。どうやら、卯月は自分と同じ性癖らしいと知って安心したのと、一度どうしても昂ぶりを何処かに吐き出してしまいたかったから。 本物のお医者さんと、お医者ごっこだ。 無意識に飲みこんだ唾に、コーラをやけに甘ったるくしたような味が残っている。 今頃、何かされてたのかも、と思ったのだが、もうすっかりどうでも良くなっていた。 ズボンと下着を脱がされて、下だけ生まれたままの姿を卯月の前に晒す。 視線は雪登から外さぬまま、卯月は一旦下がると、丁寧にズボン類を畳んでサイドテーブルに置いた。 そこで一度佇み、冷静な顔と優しい声でとんでもないことを言ってきたのだ。 「脚、もっと緩くして開きなさい。それじゃちゃんと手が届かない」 「……はい」 恥ずかしそうな声で、それでも卯月の命令には嬉々として、雪登はゆっくりとソファーに凭れるようにしながら脚を開いて行った。 先ほどまで自分自身の意思では動けなかったのに、今は卯月に言われることなら何でも出来そうな気がしている。 「さて、どこまでドクドク言っているかな?」 白衣の胸ポケットから取り出された聴診器。それが自分の身体に押し当てられることを想像しただけで、雪登は先端から、こぽっと音を立てて体液が流れ出したのを感じた。 「あぁ、いけない子だね、ソファーがずるずるになってしまうよ?」 しかし卯月の声には、それを楽しむような響きが強い。 表情にもぎらついたものはなく、ただ、目の前の静かに欲望だけを滾らせた少年を観察している様子が、いかにも医者らしかった。 「そのまま、前も開けなさい」 言われたことを理解するまでに間があったが、雪登は自分のシャツに手を伸ばし、一つひとつボタンを外して行った。 やがて、浮き出た鎖骨から筋肉など薄くついているだけの胸、小さな臍へと、淡いまだ幼いラインで構成された身体も病院の空気に晒された。 冷やされている筈なのに、雪登の奥は熱くなってくる。心臓の音がとくとくと、壁の時計の音よりも大きく聞こえている。 卯月が聴診器を耳にかけ、そっと銀色に光る部分をその胸に伸ばしてきた。 「センセ、……早くっ」 触れて欲しくて、見せつける様に雪登は背を揺らす。 シャツが肩からずり落ちかかり、長めの裾ももう、どこも被う役には立っていない。 性急な誘いに、しかし卯月は余裕たっぷりで一歩ずつ雪登へと近づいた。 「急がないでもいい。たっぷり診察時間はあるからね」 そんな言葉の後に間を置いて、乳首にひやり、とした金属の感触。 「ぁ、ぁ、ぁぁぁっ……!!!」 そんな刺激でさえ、今の雪登には開放の切っ掛けとなった。 |
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