TUNEUP2      


 電源を切ったままの携帯が、壁際近くに転がっている。
最後にそこから聞こえてきた声を思い出したくなくて、圭吾は耳を塞いだ。
後輩の、無邪気なまでに純粋な声が、今は耐え切れない気がする。
あいつのせいじゃ、ないのに。
何も悪くないのに、つい怒鳴っちまった。
苛立つようになったのは、圭吾のそれまでの生活を一変させた、あの事故以来だ。
たった1台のバイクで、全てが狂った。
事故の思い出に直結するものは、正直今ではとても苦手になっている。
悔いは無駄だし、やりなおしが効くのだから別のものに目を転じるのだと病院ではいわれた。そんな正論は、言われるまでもなく圭吾の脳にだってちゃんと湧いてくる。
 ただ、どうしても感情がついて行かないのだ。
流される様に田舎から走り出て、職も生活する場所もなくしてしまうところだった自分。何とか路上生活は免れたものの、それは圭吾自身の才覚でなしたことではない。
それが、たまらなく悔しかった。跳ね返して生きて行くには、あまりに圭吾は何も持っていなかったのだから。
そうする気力さえ削り取られそうな日々が、ずっと続いている。
身体も、心もずきずきと痛んだ。それでも、前に進まなければならない。
全身を被う気だるさを振り払う様に、首を振る。
意を決して、圭吾はずるずると携帯に這いよるようにして近寄り、スイッチを押した。
ともかく、吉村に謝ろう。あいつは悪くないのに、俺八つ辺りしちまった。
あぁそうそう、ユキって呼べって言ってたっけ。怒ってるだろうからもう駄目かもな。
でも、ともかくメールでも電話ででもいいから、ごめんなって言おう。
 ダイヤルを呼び出すべくボタンを押したとき、短い呼び出し音が携帯から鳴った。
点滅する名前は、『吉村雪登』となっている。
慌てて、圭吾は通話ボタンを押した。
「……ユキ?ユキか?」
『あ、……こんばんはケイくん』
 聞いたような聞かないような声に圭吾は固まりかけ、すぐに声の主には気づいた。
だけど、何でだ?
「ウヅキ・・・せんせ?」
『あ、分かるんだね助かったよ。』
自分の主治医が何故、雪登の携帯を使って自分に電話してくるのだろう?
「分かるって、先生、どうしたんだよ。ユキそこにいるんだろ?」
 小さな機械の向こうの声は、冷静な医師にしては珍しく動揺しているようだった。
『あ、うん、いるんだけどね……ちょっと、困ったことになってしまってね』
 困ったこと?
まさか、雪登まで事故にあったのかと青ざめかけ、圭吾は慌てて掌から擦り抜けかかっ
た受話器を持ちなおした。
「どういうことだよっ?!今、どこにいんだよ?」
『近くまで来てるけど……どうせ夜久の家だよね?彼、どうしてる?』
「さっき出かけたっきりだけど……ユキの奴どうしたんだよ、せんせ?」
受話器の向こうで、溜息が大きくした。
『あ、じゃあ、ガレージを開けておいてくれないかな?1台分開いてるよね?説明は、
そっちについてからするから。10分かからないかな。待ってて』
「あ、おぉぃ……」
再び問いかける暇を与えず切れた電話に、圭吾は首を傾げた。
 時計を見ると、いつもなら雪登がバイトに入っている時刻だ。
今日は休みなんだろうか?それとも、本当に何か事故だとしたら?
ともあれ、あの嫌味なほど冷静な卯月が説明を後回しにしているのだから、それなりに緊急の事態なのだろう。
 身を起こすとき、ぴり、と背筋を痛みが走りぬけた。それが呼び起こす記憶を振り払う様に目を閉じたが、今度は耳元で声がしたような気がした。
雪登のものではない。熱い吐息を混ぜた残酷な声は、幻聴の様に圭吾に纏わりつく。
ぽたり、と落ちた涙を拭い、のろのろとカッターシャツとジーンズを着なおして、洗面台で顔を洗った。右手は、殆ど元に戻っている。
そういや、明日リハビリだっけか。
身体の傷はゆっくりと癒えてゆく。心のそれだけが、取り残されている。
タオルで顔を拭った後、圭吾は少し早めにガレージへ向かうとシャッターを開けた。
 夜久の家のガレージは半地下で、車2台が悠々と収まるようになっている。
一度圭吾は夜久のアルファロメオを台無しにして、それは結局今ここにはない。マセラッティが残っているから、夜久はそれほど遠くへは行っていないのだろう。
 少し冷たい夜の空気を三毛猫が走りぬけた後、ライトが一つやってきた。
卯月の、圭吾は何度か見たクラウンがパッシングしているので、圭吾はついこの間までスタンドでしていた様に誘導を始めた。
実に綺麗なカーブを切って、クラウンがこちらに後ろを向けて入って来る。助手席には人影はなくて、雪登がどうしたのかは分からない。
車がライトを落としてから、圭吾は運転席に駆け寄った。
「せんせ、ユキは?」
「後ろだよ」
 確かに、後部座席には小柄な影が一つ、毛布で包まれるようになっている。
慌てた圭吾は、ロックが外れるのももどかしく後部のドアを開けると、決して狭くはない車内に長身を押しこめた。
「おい、ユキ?ユキ?」
ぺしぺしと頬を叩くと、うっすらと目が開き……圭吾を見て、笑った。
何故か、その笑みは雪登らしくなかった。酷く、怖い。
理由が判らぬまま、悪寒が背筋を駆け上る。
「ケイさん……」
身を引こうとして、天井に頭をぶつける。頭を押さえた腕を、ぐい、と引かれた。
たまらず姿勢を崩した所を、素早く体を入れ替えて押し倒される。
「おぃ!ちょっとこれ……っ?!!」
 スタンド時代に戻ったように怒鳴りつけようとして、圭吾は驚愕した。
毛布の下の雪登は、全裸だったのだ。
しかも、あられもない姿には紛れもない象徴が、天井を指し示す様にそびえている。
「〜〜〜〜〜っ?!」
 余りと言えば余りな後輩の姿に、圭吾はとっさに運転席の卯月を睨んだ。
「……いや、カウンセリングをしようと思ったんだけどね。友達に貰った最新の薬が、どうやら効きすぎてしまったみたいなんだよ」
 悪びれもせず、卯月は視線だけの問いに答えてきた。
「僕も頑張ってみたんだけど、落ちついてくれなくてね。話を聞いたらケイくんに憧れていたって言うから、君としたら収まってくれるかなと思ったんだ」
「バカヤロウっ!……あっ?!ユキ、何をするんだ、止めろ!!」
 卯月に意識が逸れたほんの数瞬の間に、手早く雪登はリアシートのシートベルト取ると圭吾の腕をおさえ、脇の下でとめるようにしてロックをかけてしまった。
万歳の状態で押しつけられた圭吾は、起きあがりたくとも起きあがれない。
「ケイさん……夜久さんと付き合ってるって、ホントだったんだね」
 無邪気な笑顔が、欲望ではちきれんばかりの身体にそぐわない。
「俺、ずっとケイさんのこと……したいって、思ってたから。一度させて、ね?」
 言うなり、手をジーンズにかけて引き下ろす。
下着をはいていなかったから、圭吾はすぐに下肢を剥き出しにされてしまった。
「準備、しててくれたんだね」
「するかっ!」
「じゃ、夜久さんとしてたの?……お昼から?」
 言い当てられて、羞恥に身を捩る。ちゅぷちゅぷと、音を立てて雪登は腹部に吸いついてきた。
「ケイさんのエッチ」
「してたんなら良かったね。後ろも緩いだろう?挿れやすいよ」
リアシートの凶行を涼しげに観察しながら、卯月は雪登に笑いかける。雪登も微笑を返して、
「センセ、有難う。俺頑張るよ」
 口の端を唾で濡らしつつ、腹部から肝心の場所へと攻め立ててくる。
「やめ、止めろ、ぁ、ユキ、……駄目っ!!」
圭吾の脚が空を掻き、運転席に当って鈍い音を立てた。
刺激を昼間散々受けていた場所は、要所を狙われてびくびくと持ちあがり始める。
「ふふ、勃ったね、ケイさん」
 その時、ガレージの奥でガン、と大きな音がした。
流石に卯月の表情が凍りつく。
「……え?夜久いるの?」
 立てつけが少しだけ悪くなったドアを、蹴り開ける音がした。
助かった、と思う反面、この状態を見られたら、という恐怖が忽ち沸き起こり、圭吾のそこは一気に萎えた。
「ぁぁん、駄目、ケイさん……」
何の薬を使ったのかすっかり正気ではないらしい雪登は、不満の声を上げてまだぴちゃぴちゃぺちゃぺちゃと舐めてくる。
 卯月はあたふたと外に出て、何やらくぐもった声がするから夜久を遠ざけようとしているらしい。
しかし、当然それは無駄な努力だったようだ。
鈍い音がした、うめき声も聞こえたから卯月だろう。殴られたのだろうか?
あっという間にカツコツと靴音が近づいて、
「……でろ、ガキが!」
 流石にこの声には雪登もびっくりしたらしい。ちく、と歯が圭吾のものに当たり、皮がぴっと弾ける音がした。
「……っ!!」
 圭吾の様子に慌てて顔を離した雪登は、何か言う間もなく車外に放り出される。叫び声がしたが、まだ大分に声は甘い。
「夜久さん……」
 すっかりこの男の恐ろしさを思い知らされている圭吾は、情けない姿勢のまま車内で凍りついた。
しかし夜久は、何も言わず手を伸ばしてシートベルトの戒めを解く。
「……あの、俺……」
仔細に圭吾の身体を撫でるようにしてチェックし、夜久は一言こう言った。
「傷がついたな。……クソガキめ。」
 その言葉は自分に向けられたものではないのに、圭吾は戦慄した。
「や、夜久さん、駄目、だめですっ……」
 追う様に車内から出ると、倒れた雪登の脚の間をめがけて、夜久が靴を履いたままの踵を今まさに落とそうとしていた。
必死で、その脚に圭吾は取りすがる。
「ケイ、退け」
「……ユキの奴が悪いんじゃなくて、卯月先生が何かしたんだっ、だから待って」
一度圭吾を蹴り飛ばそうとした夜久の脚が、すんでで止まる。
「ケイ。……お前は、誰のものだ?」
 びくり、と震えた圭吾を外す様にしてから、夜久が再度脚を上げにかかる。
もう一度、圭吾は慌ててその脚に抱きついた。
必死に夜久を見上げる。潤んだままの目で、
「……夜久さんの、ですっ」
だから、だから蹴らないで。ユキの奴は変になっているだけなんだから。
男としては恥辱の言葉を、そんな思いを込めて圭吾は口にした。
 しかし夜久は満足しきらぬ様子で、
「言いなおせ」
答えを躊躇すれば、長い逞しい脚は、動きを再開しそうである。
圭吾は、もう躊躇う暇さえないことを瞬時に悟った。
「俺は……俺は、夜久さんのもの、です……」
 夜久の目から、自分を逸らしたかった。その視線は自分に食いこんで、突き刺し、あの日の事故から逃れられようがないことを思い知らせてくるから。
でも、夜久をこちらに引きつけなければ、夜久の腹立ちはそのまま雪登に向かうだろう。卯月の言葉が正しいのなら、今この状態で嬌声とも恐怖ともつかぬ小さな声を立てつづけている少年は、本当に踏み殺されてしまうかもしれない。
 自分から、隷属の言葉を口にしたことは、今までなかった。
夜久も、言わせようとまではしなかったのは確かだが。
暫く見つめていた夜久の視線が、ふっ、と緩む。
手を顎にかけられて、顔が近づいてきて、目を閉じた。
唇は、今までよりもしつこくて、優しかった。
夜久の脚を抱きしめたまま、圭吾は自分が多分、引き返せない方向に進んでいるのだと朧気に感じている。
濡れた音を立てて顔を離すと、夜久は一度圭吾の口元を舐めて、それから奥の方の卯月に向かって言った。
「起きろ、変態医者。狸寝入りなんかしているとガキごと素っ裸で放り出すぞ」
 余韻もへったくれもない言葉に、反応があった。
「やれやれ、ラブシーンだから遠慮しておいたのにねぇ」
 脇腹を押さえつつ立ちあがる卯月は、何時の間にか一人で手を動かしつつ喘ぎ声を上げている雪登の方に向かって行くと、後ろから両腕を抱える様に抱き上げた。
「あぁん……センセ、やっっ」
 腰を振りながら言う雪登に、夜久は半ば軽蔑の眼差しを投げた。
「で?このエロガキどうするんだ」
「だからさ。一度ケイくんとさせてあげれば、好きな人とエッチできて収まるんじゃないかと」
 臆面もなく言い放つ卯月に、論外だと夜久が首を振る。
「ケイのシートは、私専用だ」
気恥ずかしくなって、圭吾は慌てて下を向く。と、ぐい、と手がかかって顎を持ち上げられる。
黙っているものの、夜久の視線は『目を離すな』と命じていた。
有無を言わせぬその目が、本当に自分への執着があることを教えてくれる。
遊びだと言うには強い意思があることが分かる時、圭吾は悔しいながらも放り出されないことにどこか安心してしまうのだ。
「じゃ、前だけでも貸してよ。……一回だけ、純情を叶えてやってくれないか」
「何が純情だ。こいつは最初っからケイにべたついて、バックを狙ってたぞ」
 断言する夜久の言葉の内容に、圭吾はもう呆れ果ててまじまじと彼を見ていた。
いや、確かに雪登は圭吾にくっついていたが、あれは仕事を覚えようとして……じゃ、ないんだろうか?
「……ぃゃぁん……早く、出してぇ……」
 真相は、今のままでは確かめようはないだろう。
暫し、夜久は圭吾と雪登を見比べていたが、不意にニヤリと笑った。
「いいだろう。ケイ、服を脱げ」
それから、卯月の上着の袖を掴まえて言った。
「お前も脱げ。一人だけ涼しい顔はさせておけん」


 ガレージのシャッターが、半分より少し下に降ろされる。全ては閉まらず、中途半端に開いたままのそれを、シャツを床に落とした圭吾は不審げに見つめた。
「へぇ、なかなかの体つきだね。バランスがとれているよ」
 医者らしい、素っ気無いような賛辞を卯月が向けてくる。彼はネクタイを緩め、足元でじゃれ付く様にして強請っている雪登を構いながら、Yシャツを脱ぎ捨てていった。
着痩せするたちと見えて、そこそこに逞しい健康そうな身体が現れる。
 一瞬気を取られると、ぐい、と乱暴に夜久に押された。
彼は未だ、少し前をはだけたシャツとスラックスを身につけている。
時々ジムにも行っている逞しい身体。昼間触れられて、否応無しに迎え入れさせられた男のボタンを、圭吾はいつもさせられている通りに外す。
 こんな真似、と思わないわけではない。しかし、自分の中に見たこともないほど嫌らしい形をした器具を飲みこまされ、リモコンでいいように悲鳴を上げさせられた時、夜久は『して欲しければきちんとお前から誘え』と言ったのだ。
それからというもの、圭吾は着衣のままの夜久に弄られる度に、自分の手で相手を脱がせるようになった。僅かに汗の匂いが立ち上っているのを感じ、前が熱くなる。
先ほど脱がされていた下肢に、冷たい空気が触れて余計にそれを自覚させる。
「夜久、躾てるね……いい子じゃないか」
 卯月はシャツを丁寧に畳んでいたが、下も脱がせようと早くも手をかけてきた雪登に梃子摺っていた。
「ふん」
 短い、素っ気無い一言が満足を示すことは、容認されている喜びを圭吾に与える。
元々サービス業で客の評価が高かった圭吾だが、今や夜久一人に奉仕することでしか、自身の行動を測ってもらうことが出来ない。
背後から卯月が見ているのを感じながら夜久のベルトを外し、黒いビキニを、周辺を撫でるようにしてずり落とす。まだ平静を保つそこに、何度狂わされたことか。
「……二人とも、きれい……」
 潤みを帯びた目で、雪登が卯月の腰に縋りながらこちらを見てそう言った。
当然だと言わんばかりに夜久は一度顎を逸らし、
「こっちだ、ケイ」
 ガレージの中ほどに立たせる。2台並列に並んだ車の間で、圭吾と外界を隔てるのは半開きのシャッターだけだ。
どうするのだろう、と思ったとき、背をどん、と突かれて前のめりに圭吾は倒れた。咄嗟に両手を突くと、かすかに右に鈍い感触が残っていた。前なら、こんなことをされたら痛くて転がっていただろう。
「何すんだよっ!」
「……経過は、順調の様だな?」
 首を捻じ曲げて抗議した圭吾の腰を押さえこみながら、夜久は卯月に視線を向ける。
「そりゃあもう。真心込めた治療がモットーだからね。僕は」
卯月は音が立ちそうなほどばっちりとウインクをした。
さぁここでしようね、と圭吾の横にくにゃくにゃとなった雪登を引きずってくる。
卯月の言葉と、シャッターの位置で、圭吾は漸く夜久の意図するところを理解した。
「や、嫌だっ!離せよっ!」
 ガレージは地上から低い位置にあるため、シャッターさえ開いていれば容易に内部を覗きこむことが出来る。
普通ならガレージの中は丸見えだ。しかし、半分は被われてしまった結果、地上からでも見えるとすれば、大人の腰の高さがせいぜいだろう。
夜久や卯月は、見えまい。少なくとも上半身までは。
しかし下半身と、四つん這いにされた圭吾は、誰かが注視すれば見ることが出来る。そして雪登も。
 全く人通りがない可能性も、夜だけに残っている。しかし、もし誰かがくれば。
「こんなの、嫌だっ!」
 暴れる圭吾は、しかし夜久の怒りの視線が突き刺さるのに失禁しそうな恐怖を覚えて泣き出しそうになった。
「お前は自分で、私のものになったんだろうが!」
 前戯も何もなく、いきなり長い指が、圭吾の奥に突き込まれる。
「あ!あ!……あ!」
 昼間散々弄られたそこは、痛みを覚えながらもぬるみを残し、夜久の指に纏いつく様に馴染んで圭吾に倒錯した喜びを与える。
ぐりぐりと夜久は指を動かしつづけ、いつもなら時間がかかるというのに圭吾はすっかり爛れた喜びを押さえられなくなり、声を上げ始めた。
「ぁあん……はぁあぁぁん……や、夜久、さ……」
「すっご……ケイさん……」
 全身を血の色と快楽に滲ませた圭吾に、卯月に向かって腰を振っていた雪登が動きを止めて見入る。
「……面白い子だね。地黒は、血が上ると汚い色に変わって興ざめなんだけど……この子はあんまり赤黒くならないね。声もいいし、掘り出し物じゃないか、夜久」
言うと、卯月は雪登の脚の間に割って入り、きつく自分自身を少年に押し付けた。
「……あぁぁぁ、センセ、……またおっきいよぉ……」
 紛れもない歓喜の声を上げて、立ちあがりっぱなしの自身から蜜を滴らせつつ、雪登が身体を踏ん張って卯月を受け入れている。
一度は触れ合ったのか、得体の知れない薬が効いているのかシャッターの開いていることは気にならないらしい。
「いっぱい……いっぱい、して?」
 淫らに腰を動かしつつ、口の端からよだれを垂らして雪登が強請っている。その様子に圭吾は夜久の手の動きをこらえながらも、自身が勃ちあがるのを押さえられなかった。
「私がなくても、イケるんだな」
その様子に目ざとく気づいた夜久が、指を引きぬいてしまう。煽られて、もうどうしようもない圭吾の身体を知っているくせに、腕を組んでしまって、同じ様に質量を増した器官などどうでも良いように、圭吾をただ見ている。
「……や、夜久さん……駄目です。俺、もう……」
「駄目なら見てろ。あれで十分なんだろう?淫乱なことだな」
 冷たい一言にも、もう後ろはひくひくと蠢いて、……欲しかった。
昼間散々受け入れたと言うのに、再び夜久に充たされたがっている自分を圭吾は内心罵った。男なのに、支配されることを望む自分も、間違いなくある。
普段だって夜久と対立し、言葉では跳ねつける。しかし、一度触れられて高められると、この男なしにいられなくなりつつある自分が、鏡に映るように圭吾の前にある。
『俺は、夜久さんのもの、です』
 自身で言った言葉で、圭吾は自分をまた一歩そこに追い詰めた。
後戻りするなら、……今度こそ、何もかも失うだろう。夜久も、雪登も、……何とか生きて行ける自分さえも。
圭吾は、両腕を後ろに回すと頬を剥き出しのコンクリートにつけた。ガレージの冷気が、否応無しに肌を泡立たせている。
後ろに回した手で、自分の双丘を掴んで割り開いた。夜久の目の前に、恥部を余さず晒していることを想像しただけで、前が固く張り詰める。
感情が失せた様にそっぽを向こうとして、夜久が顔をバネで引き戻されたかのように圭吾に向ける。
今まで、ここまではしたことがなかった。その恥じらいが再び圭吾を熱で赤く染める。
「……夜久さん……して下さい……」
 声は甘く掠れた。
「俺を……滅茶苦茶に……っ……あぁっ!」
 圭吾の誘う姿を見た途端、夜久の目はジルコンのように輝いた。昂ぶりが腹に突きそうなほど跳ね、喉の奥で唸るような音を上げただけで、一気に背後から圧し掛かり、突き上げる。
「これは、……たまらないね」
 横で雪登を喘がせながら、卯月がたまりかねた様に腰を使う。
「ひぃ、ひっ……センセ、センセぇぇっ……!!」
 雪登は辺り構わずすすり泣きながら、昂ぶったまま何度も欲望を吐き出していた。
しかし、圭吾はもうそれを見つめる余裕さえなかった。
昼の余韻が消え去る前に、再び打ちこまれた熱い杭。脳髄を白く灼く質感。内側を擦られて、前からはしとどに蜜を分泌し、開放を求めて夜久を何度も締めつける。
圭吾の感じる部分を、その周辺から攻めるようにぐりぐりと押し上げる夜久は、何時もよりも確かに興奮していると感じられた。
今にも、内側が張り裂けて二つになってしまうのではないかと思うほど、大きい。
この熱になら、そうされても構わないと、一つになるとき圭吾は思う。
「あぁ、夜久さん……もっと……」
「……ケイ、良いのか?」
意地悪な笑みを顔に張りつかせて、夜久は尋ねてきた。
「今、外を通りかかったら、お前の声も、その恥ずかしい姿も丸分かりだぞ?」
びくん、と内側が蠢く。
恥じらいはしかし、こうなった今熱を高める効果しか持たない。
「イイ……です……夜久さん、が、イイ……」
 今日だけは狂ってしまえ。圭吾のどこかで、そう何かが囁いた。
見られても、もう仕方ない。夜久を失いたくない。この瞬間だけでも。
一度、夜久は身体を引き戻し、崩れおれる圭吾を支えた。卯月に目配せをする。
卯月も、言わんとする所を悟ったのか、雪登を抱えたままこちらを向いてきた。
「……ま、エロガキもたまには道具になるな」
よっと、と声を上げて卯月が雪登と繋がったまま立ちあがる。圭吾の目の前に、初夏の大気を思わせる匂いを放つ部分が広げられた。
うっとりとしている雪登は、まだそれに気づかない。
「ケイ。しゃぶってやれ」
 夜久の声には、もう逆らう気すら起きず、圭吾は躊躇うことなく雪登を口に含んだ。
うっすらと雪登の瞼が動き、圭吾のしていることに一度大きく見開かれる。
「ぁっ、け、ケイ、さ……ひあぁっ!」
 身を捩って、声をオクターブ高くして叫んだ雪登の背後で、
「……ぅっ。途端に締まりが違う……やっぱりこの子本物だね……」
 卯月の眼差しも蕩け始める。立ったまま腰を揺すり、時々抱えなおして雪登を否応無しに深く突き刺しているのが丸見えだ。
夜久以外のものを口にするのは初めてだったが、感じる部分はそう変わらない。裏から突つき、筋に沿って舌先を這わせ、やがて袋を飴玉のように含んで舐めるうち、圭吾は再び後ろが物足りなくなっていることを感じた。
男が好きなわけでは、なかったのに。もう、そんな言い訳は出来ない。
雪登を含んだまま夜久を斜めに見上げる。一度手が伸びて頭を撫で、それから、再び夜久は背後から圧し掛かってきた。
「ぁ、ぃ、ぃぃっ……」
圭吾は必死に舌と腰を動かした。雪登の悲鳴も感極まって途切れ途切れとなり始め、卯月も夜久も二人の背後で大きく腰をグラインドさせている。
「夜久、……遊ばなくなった、と思ったら、すっかり本気だね」
「黙れ」
「……んっ、でも、ステディ、は初めてじゃない?」
ビックリして見上げると、卯月は少年を抱いているとは思われない程穏やかな笑顔を圭吾に向けていた。
「黙れ、変態。七瀬なんかの口車に、乗りやがって」
圭吾の知らない名前を、夜久は吐き捨てる様に口にした。
「何で奴に頼まないんだ」
「電話したら、ハワイだってさ。困った、けど、ね。でもこうして……んんんっ」
 卯月の声から、余裕が消えた。
「あぁぁん、ケイさん、センセ、いっちゃうよぉ……もう駄目ぇ……」
 激しく、圭吾の喉を雪登が突き上げる。背後は夜久が埋めこまれ、もうこれ以上、何も迎え入れる余地はない。
それでも、何かに飢えたように視線を泳がせて……圭吾は、はっとした。
黄色い帽子。こちらを向いている、小さな顔。
親と歩いているのか、塾にでも行くような鞄を持たされた子供が、引きずられる様にして通りすぎて行く。
暗いから、良く分からないかもしれない。しかし、確かに白い小さな顔は、四角く切り取られた空間から消えるまで、こちらを見ていた……。
その瞬間、縮みあがってしまったた圭吾の襞は、くっきりと形を思えるほど、夜久を締めつけていた。
一点が、擦れる。
「ぁ、……ゃぁあっっ……はぅぅ……ん!」
 圭吾のすぼまった口中に、雪登が叫び声を上げながら思い切り良く放った。
意識を取られていた圭吾は噎せ返り、口の回りををシェイクでも飲んだ後のように汚してしまう。ぽたぽた、と垂れ落ちる粘液に、
「……色っぽいね……」
荒い息をつく卯月が、解放した雪登を床に降ろして手を伸ばしてくる。
その手が、乱暴に無言のまま動きつづける夜久によって払われた。
「たまらないね、夜久、この子」
「あぁ」
見下ろしてくる二人分の眼差し。そして、床に転げ、漸く萎えて小さくすぼまった部分を隠しもせず、蕩けた目で見つめてくる雪登。
さっきの、子供の目。
 それが全て、自分の恥ずかしい姿を記憶に納めているのだと思った瞬間、もう耐えられなくなった。
「い、嫌、だ、あ、ぁぁぁぁっ……はぁぁぁぁ!」
 仰け反った圭吾の後ろで、低い唸り声が起きる。
前に灼熱の痛みにも似た感覚が突きぬけたとき、夜久もまた自分の体内に全てを注いでいるのを、内側の熱さで圭吾は知った。


「……で?それで、結局その子は納まったのかい?」
 戻ってきた『友人』の問いかけに卯月は頷いた。
「一応は、ね。やっぱり好きな人にいきなり口でというのは良かったらしいよ」
 雪登を狂わせるほどのクスリをくれた友人は、そんなものかね、と笑う。
「でも、バックは『あの男』がしっかり押さえているんだろう?」
 夜久を示すらしい、僅かながらだが不快を滲ませた口調を聞いて、卯月は苦笑した。
「そういうところかな。減価償却が過ぎても乗ってやるって、珍しく夜久が意地張っていたよ」
「というと5年も?らしくないじゃないか、抱き捨てが日常茶飯事の男が」
 キッチンからは、ハワイ土産だと言う珈琲の良い香りが漂ってきている。カチャカチャと心地よい陶器の音が、二人が座るリビングまで聞こえてきていた。
「ま、君と同じで、年貢の納め時ってことじゃないのかな?寂しいね、戻って夏までには結婚だなんて。遊び足りなくないかい?」
 とんでもない、と友人は笑い、そしてキッチンのほうからやってくる人影を見た。
「それで、その子が『ユキ』なんだね?」
 珈琲を運んできた雪登は、あからさまな視線に頬を染めた。無理もない、黒いギャルソンのエプロンと真っ白い靴下のほかには、何も身につけていないのだから。
「そう、すっかり見られるのが好きになってしまってさ。僕が教えるまもなく、こうした格好してくれるからサービス良いよね。スタンド仕込みかな?」
こんな会話でなければ爽やかと形容できそうな笑い声が立つ。
 エプロンの前を隠すようにして、雪登は二人の前にカップを置いた。トレイで前を隠すようにしてその場に立ち、
「行っていいよ。一人で遊んでおいで、暫く話しているから」
 言われて嬉しそうに、与えられた部屋に向かう。
卯月達が珈琲を啜る頃には、奥の方から押さえきれていない甘い鼻声が聞こえ始めた。


 玄関から出て、圭吾は立ちすくんだ。黄色い帽子、明らかに幼い少年が、こちらをじっと見上げている。
一歩下がろうとして、すぐに背中がぶつかった。
「どうした、坊や?ここは学校じゃないぞ」
 雪登に向けていたのとは格段に違う愛想の良さで、夜久が圭吾を押しのけ、少年と視線を合わす。仕事に向かうときの夜久は、至極真っ当に見えるから不思議なものだ。
 もじもじしていた少年は、圭吾を見上げると小さく声を発した。
「……あの、ね。オニイチャン、この前お車の所にいたよね?」
 車、と言う言葉に、ピクリ、と夜久の眉が蠢いた。
そう、圭吾は今までこの少年がいたことを夜久には話していなかったのだ。
「さ、さあ?そうだったかな……」
「火曜日ね、ボク、塾行くの。道怖くて、お母さんとでないと行けなかったんだけど、この前通ったら、お兄ちゃんいたでしょ。ボク、怖くなくなったんだ、それで」
嬉しそうに話す小学生と対照的に、夜久の空気は静かなものに変わってゆく。
「一人で行くって言ったら、お母さんほめてくれたの。だからお礼言いに来たの」
 有難う、と頭を下げる小学生を夜久の手が撫でる。
そのまま走り去る小さな背中をにこやかに見送り、
「……さて、ケイ」
 向き直った顔からは表情が消え果ていた。眼光だけが鋭く、圭吾を打ち据える。
「私に隠しごとが出来るとは、大したものだ」
「あ、あ、あのっ」
 がっちりと左肩を押さえられる。
一応はまだ、右を気遣ってくれているらしいが……
「そんなに、見られながらするのが良かったか?」
「ち、ち、違いますっ!絶対!!」
 必死で首を横に振る。夜久はどこか冷ややかにそれを見ていたが、
「今日は、仕事は止めだ。アポもないしな」
 断言すると、肩に置いた手を素早く移動し、圭吾の首根っこを掴んだ。
「あ、あの、夜久さん……」
「そんなに好きなら、今からガレージで洗ってやろう。お前は車が好きだから、車と同じ扱いを受けると嬉しいんだな」
 玄関脇から、夜久は圭吾を引きずる様にしてガレージに移動し、リモコンでシャッターを開ける。
「たっぷり、今日は乗ってやるからな。好きなだけ、突っ走れ」
 突き飛ばす様に圭吾をガレージに追い込んで、夜久は水道のホースを手に取った。
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